行政書士は、弁護士や司法書士などのように法律を扱う国家資格で、市民と官公署とをつなぐ、法務と実務の専門家です。
弁護士と比べるとかなり限定された範囲内でしか法律事務を取り扱うことができませんが、書類作成業務や官公署への書類提出手続きの代理業務、契約書等の代理作成業務など、弁護士よりも気軽に相談できる「身近な街の法律家」といった位置づけで、私たちの生活を守っています。
行政書士の業務を大きく分けると2つあり、「書類作成代行業務」と「コンサルティング業務」です。それぞれの仕事内容について解説していきます。
●書類作成代行業務
書類作成代行とは、飲食店などの開業許可や建設業の許可など、許認可申請に関する書類を、顧客に代わって作成することです。許認可申請とは、新しく事業を始める際などに、「官公署」に許可を得るため必要となる手続きを指します。
「官公署」とは、各省庁や都道府県庁、市・区役所、町・村役場、警察署などのことです。
官公署に提出する書類の数は1万種類を超えるとも言われており、一部として例を挙げると「建設業許可申請書」「飲食店営業許可申請書」「倉庫業登録申請書」「NPO法人設立認証申請書」「農地法の規定による許可申請書」「告訴状」「請願書」などがあり、私たちの生活や仕事に密着しているものも少なくありません。
●コンサルティング業務
コンサルティング業務では、培った法知識を活かして企業に対して幅広いアドバイスを行います。会社設立の手続きだけでなく、設立後においても事業運営が円滑に進むよう、さまざまな課題に対してコンサルティングを請け負います。
また行政書士は顧客から依頼された書類作成について、相談に応じることが業務として認められています。相続手続きに関する相談といった個人レベルの内容から、企業の経営・法務相談といった内容まで、相談内容は様々です。
現在では書類を作成しなくても、依頼者に相談料を請求することが可能となっています。そのため最近の行政書士は書類作成に伴う相談業務を通じて、顧客が抱える問題を法的にアドバイスしたり、新規ビジネスの提案をしたりなどして、コンサルティング業務をメインとする人も多くなっているようです。
行政書士として働いている人の平均年収は、約600万円前後といわれています。企業に就職するほか、独立・開業する道もありますが、行政書士には様々な働き方があり、年収の個人差が大きいのが特徴です。
新人行政書士の年収は300万円前後くらいといわれており、200万円台の人も少なくないようです。新人のうちは仕事に慣れていないので数をこなせず、その分稼ぎも少なくなりがちです。
また独立・開業する道を選んだ場合は完全実力主義の世界となるため、その人の実力次第で収入は大きく変わります。独立当初は年収が低くなりがちですし、仕事が獲得できなければいつまで経っても収入は伸びません。どれだけ案件を獲得できるかが重要になるため、行政書士としての知識だけでなく、営業の知識も必要となってきます。人脈を広げるためのコミュニケーション能力や、リピート客を獲得するためのノウハウも、稼ぐ上での大事な要素となるでしょう。
行政書士として働き始めて5年を超えたあたりからは、年収500万円くらい稼げる人も増えてくるようです。ベテランになってくると、以前付き合いがあった顧客が別の顧客を紹介してくれたり、士業同士の仲間が出来てそこからの紹介がもらえたりして、仕事の量が増えてくるからです。
真摯な姿勢で仕事に取り組みそれなりの結果を出していけば、10年程で年収700~800万円くらいに手が届くといわれています。実力次第では、それ以上に稼ぐことも可能です。
近年やチャットボットや自動音声会話技術の発展により、AIが自動的に宿泊先を手配したり、簡単な電話の対応ができるようになりました。将来的には、これらの技術の発展により、大きな影響を受けると思われます。
社会保険労務士の場合は、「勤務社労士」として社労士登録をおこない、勤務先の専従社労士になることができます。しかし行政書士の場合は、「勤務行政書士」として登録をおこなうことはできません。
加えて行政書士の業務は分業がしにくく、一人でこなせてしまうことが多いため、人を新たに採用する必要性があまりないといった特徴もあります。
それゆえ行政書士の求人は少なく、せっかく資格を取得しても就職先が見つからないといったケースが、少なくないようです。
大都市圏を中心に行政書士法人もないわけではなく、少ないながらも行政書士の求人もあるようです。ただし行政書士事務所での求人の多くは、待遇はアルバイト程度で、時給は1000円くらいのものとなっています。
このような背景から行政書士は、基本的には「独立開業」して働くスタイルが、メインの仕事だといえるでしょう。
しかしながら実務経験も人脈もないままに独立開業するため、暗礁に乗り上げてしまう行政書士も多くいます。その結果、「行政書士は食えない」というイメージを、持たれることも少なくないようです。
また野村総合研究所とオックスフォード大学が、2015年12月に公表したデータによると、行政書士のAIによる代替えの可能性は、なんと93.1%という、高い数値が出ています。AIの進歩により仕業の仕事が奪われる可能性が高いとされていますが、その中でも行政書士は、最も高い数値となっているのです。
これらの事情を踏まえると、行政書士の将来性は暗いものに感じてしまいますが、一方では行政書士の業務内容の範囲が広がってきているという、明るい兆しもあるのです。
平成13年に改正行政書士法が施行され、行政書士も弁護士などと同じように、遺産分配の協議や交通事故の示談交渉などに関わることができるようになりました。また高齢化に伴う問題が多々ある中で、市民法務での活躍も求められています。このように行政書士の新たなニーズが、広がりつつあるのです。
裁判はできないものの「身近な街の法律家」として、トラブルが大きくなる前に未然に防ぐことができるよう相談にのるなど、予防法務実務家としてのニーズは、今後も十分にあるのではないでしょうか。
行政書士になるには、主に3つの方法があります。
まず一つ目は、行政書士試験に合格することです。行政書士試験を受けるにあたっての受験資格は特になく、年齢や学歴や国籍に関係なく、誰でも受験できます。
二つ目の方法は、公務員として一定年数の経験を積むことです。
国家公務員または地方公務員を17年以上(中卒の場合は20年以上)やれば、行政書士の資格がもらえます。行政書士はもともと「代書人」と呼ばれ、官公署などに提出する書類を作成する仕事であるため、似たような業務を長年経験しているであろう国家公務員や地方公務員については、行政書士の資格を与えましょうと、なっています。
三つ目の方法は、他の仕業の資格を取得することです。
「弁護士」「税理士」「弁理士」「公認会計士」の資格を持っている人であれば、日本行政書士会連合会に登録することで、試験なしで行政書士になることができます。それらの資格を持っていることで行政書士の資格が認められるのは、それらの資格を持つほどの人であれば、行政書士の業務をこなせるだけの能力があるだろうという趣旨により、こういった仕組みとなっているようです。
行政書士としてのキャリアアップとしては、数多くある行政書士の業務から得意とする分野を広げて活動の幅を広げたり、一つの業務を突き詰めて専門性を高めたりするという方法があります。
その他のキャリアアップとしては、行政書士と関連性の高い他の資格を取り、扱える業務を増やすことです。他の資格を取ることで、行政書士の資格だけではできなかった業務を、扱えるようになります。
例えば宅地建物取引主任者の資格を取り、土地の売買や賃貸・家屋の売買などの業務を扱えるようになったり、中小企業診断士の資格を取り、企業コンサルタントの業務にも対応できるようにしたりと、ダブルライセンスによりキャリアステップしていく方法も、非常に有効といえるでしょう。