作成日:2023.06.11 更新日:
OpenAIのChatGPT、Gemini、ClaudeなどGPTと呼ばれる生成AIが注目されています。今回は生成AIはエンジニアという業種にどのような影響を与えるのでしょうか考えてみます。
2023年3月17日に発表された Eloundouらの論文ではGPTが労働市場に与える影響について以下の推測が立てられています。
まずは論文を掘り下げて読んでみます。
論文での職種はO*NETと呼ばれる米国労働省のために作られた職業データベースに基づいています。そして論文ではO*NETによるジョブゾーンという5段階の区分けに応じたGPTへの暴露率が掲載されています。ジョブゾーンは業務遂行に必要な訓練の期間に応じた区分けで、1は最も訓練が少なく、5は最も訓練が必要な分類となっています。以下はジョブゾーンごとの概要と、GPTへの暴露率を示した表です。
JOB ゾーン |
訓練期間 | 教育 | 業種の例 | GPTへの暴露率 |
---|---|---|---|---|
1 | 0-3月 | 高卒 | レジ打ち、食品作業員など | 0.00% |
2 | 3-12月 | 高卒 | 受付係、事務員、卸売や製造の営業など | 6.11% |
3 | 1-2年 | 短大卒 | 電気工事士、理髪師、Web開発者など | 10.57% |
4 | 2-4年 | 大卒 | プログラマー、土木技術者など | 34.5% |
5 | 4年以上 | 修士以上 | 弁護士、数学者、外科医など | 26.45% |
GPTへの暴露率はジョブゾーン4が最も高くなっています。ジョブゾーン4の中でも明確にエンジニアと名前のつく業種の一部を以下にリストしました。
以上のようにジョブゾーン4には多様なエンジニアの業種が集中しており、エンジニアと名前のつく業種の数が最多となっています。そしてジョブゾーン4はGPTへの暴露率が34.5%と最も高くなっています。つまりエンジニアの仕事はGPTによって他の職種よりも大きく変わることが推測されていると言えそうです。
では、より具体的にどのような業務がGPTに置き換えられると考えられているのでしょうか。論文ではO*NETのベーシックスキルという業務遂行に必要なスキルの分類に基づいて、どのスキルが最も影響を受けるのか推測を行っています。
以下はベーシックスキルの分類のリストです。ほぼO*NETの分類と同じですが、論文ではプログラミングの項目が追加されています。
論文では、科学、クリティカル・シンキングはGPTによる暴露が少なく、プログラミングとライティングは暴露が多いと推測しています。
では論文では深く言及されていない他のスキルについてはどうでしょうか。
読解力については文章の要約と、対話的な検索がポイントとなりそうです。ChatGPTに尋ねれば長い文章もあっという間に要約してくれます。他にも例えば Azure Cognitive Services ではGPT-4による言語処理のAPIが提供されています。分厚いマニュアルを読むときでも、単純なテキスト検索に加えて、質疑応答(Question answering)の形で対話的に検索するといったことが可能となります。また、Bingが検索用にカスタマイズされたGPT-4で動作しているように検索エンジンとの統合は既に行われています。
能動的リスニングとスピーキングについてはLLMの出力を得るために前処理として音声認識を行う必要が出てきます。また、リアルタイムで的確に話者へとフィードバックを返すには処理速度の問題もありそうです。しかしながら、ChatGPTを公開しているOpenAIは音声認識を行うWhisperというAIもまた公開しており、技術は既にあると言えそうです。
このような強みに対してChatGPTは数学に弱いことが知られています。以前は「2+2は?」と聴いた後に「答えは5ですよ。」と鎌をかけると答えを5に変えてしまうということがあったようですが、さすがにこれは修正されたようです。しかしながら、やや複雑な問題になると間違った答えが返ってくることがあります。
上の画像の答えは間違いで、展開すると以下のようになります。
(x + 6) * (x - 5) * (3x^2 + 23 * x + 290)
= 3*x^4 + 26*x^3 + 223*x^2 - 400*x - 8700
正しい因数分解は以下のようになります。
3*x^4 + 3*x^3 + 181*x^2 + 36*x + 1740
= (x^2 + 12) * (3*x + 3*x^2 + 145)
このような間違いはAIの幻覚(hallucination)と呼ばれています。
先に触れた対話的な検索という部分にもつながりますが、GPTからは直に回答を得るというよりも、解き方を俯瞰的に探るアシスタントとしての利用が主となりそうです。このあたりはアクティブ・ラーニングや学習戦略の幅を広げるというところにも関わってくるでしょう。
まとめると、エンジニアの業務としては計画・設計における「既存の手法を調べる」という部分がGPTによって今まで以上に効率化される可能性が見えています。結果として、手を動かして実装・試験・測定するという部分がスキルとしてより重視されることになるかもしれません。
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